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佐藤伸治が遺した『宇宙 日本 世田谷』のボーダーレスな世界

フィッシュマンズの佐藤伸治が1999年3月15日にこの世を去ってから15年の月日が経ちました。繊細な感性をつづる歌で、日本のロックシーンにじんわりと確かな足跡を残した佐藤伸治が最後に遺した『宇宙 日本 世田谷』はいつ聴いても心が遠くに飛んでしまいます。

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初期は忌野清志郎の影響を感じる曲調やボーカルがフォロワーとしての人気を生んでいた気がします。

画像2▲ゆるいイメージのキャラクターもありサブカル女子にも人気でした。もちろん今もね。

フィッシュマンズがボーカル、ギターの佐藤伸治を中心に結成されたのは1987年のこと。時はまさにバンド・ブームの頃です。パンクバンドやストレートなロックバンドが多い中、レゲエを基調としたポップテイストの楽曲をやっていた彼らはめずらしいバンドに思えました。

91年にシングル「ひこうき」でメジャーデビューした彼らは順調に活動を開始しますが、結成時のオリジナルメンバーであり、作詞作曲も手がけていたギターの小嶋謙介と途中加入したキーボードのハカセが脱退すると、徐々に音楽性が変化していきます。

当初RCサクセションを手掛けたプロデューサーのもとでデビューしたこともあり、佐藤伸治が作る音楽は忌野清志郎からの影響を大いに感じさせる楽曲でした。また、そこからファンを獲得してもいたのではないでしょうか。

90年にRCはすでに活動を停止していましたし、忌野清志郎はバンドブームに背を向け「パパの歌」などのヒットで尖がったロックのイメージから一時期脱却していた印象があります。そんな中に登場した彼らの音楽は、新時代のロックバンドとして受け入れられました。

シンプルなメロディラインと等身大の自分や周囲を歌った曲を、レゲエやファンク、R&Bといったブラックミュージックテイストを消化したセンスあるプレイヤーが演奏するのが魅力だった初期の音楽性は、悪く言えば「普通のポップス」と言えるかもしれません。

プライベートスタジオで制作に没頭できる環境が完成したことが大きな変化を呼び込みました。

画像3▲メンバー同士でわきあいあいと音楽を楽しんでいる感じがまた良いんです。

ところがメンバー2人の脱退以降、サウンドエンジニアであるZAKがレコーディングへ参加したり、プライベートスタジオ、「ワイキキビーチ/ハワイスタジオ」を設立し、制作を開始する中でダブ・エレクトロニカバンドとしての特色を表してきます。

作風の変化が最も顕著に表れたのが、ポリドール移籍後の96年に発表されたアルバム『空中キャンプ』です。

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最高傑作『空中キャンプ』の誕生により個性的サウンドの探究が始まります。

画像4▲「ナイトクルージング」のPVは今観てもトリップしちゃいます。

1曲目の「ずっと前」続く「BABY BLUE」と、悲しさを漂わせたサウンドと観念的な歌詞がじわじわと心に沁みて行く楽曲は、これまでのフィッシュマンズの世界とは違う、何か幽体離脱でもしたかのような印象でした。

代表曲「ナイトクルージング」のゆらゆらしたギターのリフと、全体的にリヴァーブがかかったダブサウンドの中で言葉少なに歌う佐藤伸治と、飛び跳ねる3人の姿を映したPVは唯一無二の個性を感じさせました。

「幸せ者」「すばらしくてNICE CHOICE」「新しい人」といった後半の楽曲たちもいわゆる「2拍4拍」にアクセントのあるロックサウンドでは全くありません。

すべてにおいて「ゆらぎ」を表現したその世界観は衝撃的であり、いまだに『空中キャンプ』をフィッシュマンズの最高傑作として挙げる人も多いどころか、日本のロック史上の1位に挙げる人もいます。筆者もこのアルバムが最高傑作だと思います。

世界観を確立した彼らが次に向かったのは1曲約40分でアルバムを成立させるという実験的な音楽。UAの参加も話題となったこの作品『LONG SEASON』のコンセプトはプログレッシヴではあるものの、すんなりまるごと聴けてしまう必然性を感じる不思議な1枚です。

こうした変遷を経て生まれた『宇宙 日本 世田谷』は、“世田谷3部作”の3作目としてリリースされました。

冒頭からささやくように“心の揺れを静めるために 静かな顔をするんだ”と歌われる「Pokka Pokka」からすでに、凡百のバンドの描く風景とは異なる突出した個性を感じます。緩やかでやわらかいリズムの中で軽快にきざまれるギターカッティングが最高に心地よく響きます。

「WEATHER REPOPT」のトライバルなビート、アコギのストロークに乗せて歌われる浮遊感満点の「IN THE FLIGHT」は夢の中にいるような“ネオヒッピー”なサウンドを実現しており、もはやここがどこで自分が誰なのかすらどうでも良くなってしまいそうです。

レゲエナンバー「Magic Love」はこの時期としては精一杯ポップスにしている印象です。「バックビートにのっかって」からラストの「Daydream」まで、前2作のアルバムと比較してもかなりのぶっ飛び方です。

“ぶっ飛ぶ”と言っても、轟音を鳴らすとか叫ぶとかいうことでは一切ありません。そして決して宗教的なニュアンスも感じないこの作品ですが、やはりドラッギーな印象はぬぐえません。

どこか遠く、違う世界に行ってしまったような音像が胸に迫ります。

画像5▲ロックスターではなく、タレントでもない、天性の音楽家でした。

どこか遠い世界に行ってしまった感さえある、独自のダブポップワールドを確立させた『宇宙 日本 世田谷』の完成を最後に佐藤伸治はこの世を去ってしまいました。それはまるで現世での役割を終えたかのようでした。

シド・バレットやブライアン・ジョーンズのように“アザーサイドに行ってしまった” 佐藤伸治が遺したこのアルバムを聴くたびに、未だに強烈に精神を揺さぶられます。

文・岡本貴之

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