ザ・タイマーズ「FM東京事件」～プロデューサーだけが知るエピソード

「ずっと夢を見て安心してた～」セブンイレブンのCMでおなじみの「デイ・ドリーム・ビリーバー」。この曲を歌っているバンドは忌野清志郎…によく似たボーカリストがいるザ・タイマーズ。

彼らが起こした事件といえば「FM東京事件」です。その裏でおこなわれたレコード会社プロデューサーとのやりとりとは？

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「グラッチェ、グラッチェ！」ってゼリーもテレビで言っていたっけ（笑）

▲よく考えたらそもそも「タイマが大好き～」がヤバいんじゃないでしょうか。放送上、おおらかな時代ですな。

ある日、バイト先の蕎麦屋で午後のヒマな時間をもてあましていた僕は、突然テレビから流れてきた声に振り返りました。

テレビの中では若者たちがカップラーメンをすすりつつ、「グラッチェ、グラッチェ！」なんて言っています。エースコック「スーパーカップ」のCMでした。

映像とまったくマッチしていない特徴的な声。どう聴いても忌野清志郎です。しかし画面の右下にクレジットされた名前は「ザ・タイマーズ」。聞いたこともない名前です。

実はCMソングになる前の1988年にすでにザ・タイマーズは文化祭などのライヴに飛び入り出演をしていたのですが、インターネットも無い当時のことですから、まったくといっていいほど情報はありません。

雑誌などでタイマーズのことを知ることになるのはCMを見てからです。

ゲリラ・ライヴを繰り返すなかで、その土木作業員ルックと過激な歌で徐々に名前を広めていったタイマーズは、広島の平和コンサートに正式に出演するなど、メッセージ性の強い音楽性をあらわにしてきました。

1989年にシングルCDとして発売されたタイマーズのカバー「デイ・ドリーム・ビリーバー」は、洋楽のカバーとは思えない自然な歌詞がメロディに乗った素晴らしい出来で、買ったばかりのCDコンポで何度も聴きたおしました。

正式に活動をはじめたタイマーズはファーストアルバム『ザ・タイマーズ』を発表。オールドロックを基調としたサウンドをアコースティックな楽器編成で演奏した作品です。

歌の内容は「偽善者」「争いの河」「総理大臣」「LONELY JAPANESE MAN」といった社会や日本政府への向けてのシニカルなメッセージと、バンドブームをディスった「ロックン仁義」「3部作 (人類の深刻な問題,ブーム ブーム,ビンジョー)」といったもの。

「僕は君が好きで～」なんて感じのラブソングが主流の音楽界に、爆弾を投下したかのような衝撃を与えたアルバムでした。清志郎の、いやゼリーの本領発揮です。

音楽番組史上に残る名場面「FM東京事件」勃発！これはもう笑うしかない

▲ちなみに「FM東京」に続いてシレっと「デイ・ドリーム・ビリーバー」を歌ってるところが凄い。さすがです。

そのタイマーズがテレビに出演することを知ったのは、生放送が終わった翌日のスポーツ新聞でのこと。

前日深夜に生放送されていたフジテレビの音楽番組「ヒットスタジオR&N」に出演したタイマーズが予定にない曲「FM東京」で放送禁止用語を連発したというではありませんか。

歌われたのは「FM東京くさったラジオ なんでもかんでも放送禁止さ」といった歌詞の曲ですが、これはRCサクセションや山口富士夫との共作曲を放送禁止にしたFM東京への報復だったようです。そのことを知るのはかなり後になってからでした。

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田舎の放送局では前週の久保田利伸ライヴに差し替え！仕方ないけど、でもなぜに久保田！？

▲「お●●こ野郎～」に大喜びする永井真理子嬢。ていうかカメラマンの悪意！

僕が当時住んでいた長野県では「ヒットスタジオR&N」は録画放送されていました。しかしワクワクしながら「FM東京」をまちわびていた僕はがっかりしました。なんと急に画面が切り替わり、前週の久保田利伸のライヴに差し替えられていたのです。そんな馬鹿な！

よく考えたら放送禁止用語を再度放送はしないでしょうけど（笑）。その後何かしらの手段でこの放送を見た僕は手を叩いて大笑いしました。そう、スタジオにいた永井真理子と同じくらいに（笑）。

放送前、「悪い予感のかけらもないさ～」いや、やっぱりやってくれました

▲さすがにお詫びするMC陣、古舘伊知郎&GWINKOと清々しい表情の後ろの方々。おい、お前だよオマエ！

制作サイドもまったく予期せぬできごとだったようですが、この時の様子を後に証言している方がいます。当時東芝EMIのプロデューサーとして、RCサクセション、THE TIMERS、HISを担当していた近藤雅信さんです。

近藤さんはのちに清志郎から「裏切り者のテーマ」という曲で「コンドー！」と名指しされてしまう人物なのですが、この時は清志郎の活動を支える敏腕プロデューサーとして現場にも同行していたそうです。

ゼリーこと（もういいですよね笑）清志郎の死後に発売されたアルバム『Baby #1』のリリースイベントに登場した近藤さんの話によると、当時清志郎宅の近くに住んでいた彼は、清志郎が何を考えているのか、あうんの呼吸でわかるようになっていたそうです。

フジテレビでの収録当日、リハーサルを終えた清志郎の様子を見て「何か企んでいるのでは？」と察知した近藤さんは本人に「キヨシさん、何か考えてませんか？」と聞いてみたそうです。清志郎の答えは「ううん、大丈夫。」だったそうです。

その後起こった「FM東京事件」でテレビ局に謝ることになった近藤さんは、当初「なぜ自分に話してくれなかったのか！？」と思ったそうです。

しかししばらくしてから、もしかしてあの時「FM東京」を歌うことを話さなかったのは、自分を余計なことに巻き込まないようにするためだったのではないか、と考え直したそうです。

予期せぬ出来事であれば仕方ないですが事前に知っていたとなると、なぜ止めなかったんだという話になり、より責任を問われる。だからこそ何も言わずに実行したのではないかというのです。

近藤さんは「キヨシさんは、そういう優しい人です」と言っていました。タイマーズの「FM東京事件」の裏には過激さだけではなく、清志郎の優しさも隠されていたんですね。

文・岡本貴之

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